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PROTECT CYCLISTS

Why Protector

 現在、PROTECT CYCLISTSが活動の中心に置いているのはプロテクターの普及活動です。その理由としては、サイクリストがプロテクターを着用して走ることに、大別して二つのメリットがあると考えているからです。一点目はもちろんサイクリスト自身の身体を保護できる点です。そして二点目は、自転車業界の安全意識の高まりを外部に示せるというものです。

 まず一点目のサイクリスト自身の身体保護についてですが、これはプロテクターを装着することの直接的なメリットとして非常に分かりやすいでしょう。薄いサイクルウェアのみでは、身体が落車時の衝撃をもろに受けますが、プロテクターが衝撃を緩和すれば、内臓へのダメージや骨折といった深刻な怪我を避けられる可能性が上がります。しかし、自転車上での動きやすさや熱中症のリスクなども考慮すると、全身を覆うようにプロテクターを装着してあらゆる怪我に備えるのは難しいでしょう。

 そこでまず、事故時に致命傷となりやすい部位を保護できるプロテクターの装着を検討するべきです。警視庁の統計*によると、自転車乗用中の死亡事故において頭部の次に損傷しやすい部位は胸部です。また、自転車に体勢が近く、よりヘルメット装着率の高いバイクの死亡事故では、胸部の割合が頭部と大差ないほどにまで上昇しています。趣味や競技レベルでサイクリングを楽しむ層の多くがヘルメットを装着するようになったにもかかわらず、死亡事故が頻発する現状に照らして考えると、胸部プロテクターがサイクリストの命を守る可能性は高いと言えそうです。そのため胸部の保護を最優先としつつ、胸部と同時に保護しやすく後遺症が重篤化しやすい脊椎の保護も考慮に入れた胴体部のプロテクターこそが、自転車界へ導入する必要性及び可能性の最も高いものだと考えています。

 これらプロテクターによる身体的保護というのは、乗り手のスキルアップや速度制限による落車の発生抑制・衝撃緩和対策と比較した際に、より確実に被害を抑えられる防御手段であることが重要です。プロテクターは物理的な対策であるが故に天候や疲労度、落車時の体勢、当たり所の良し悪しといった諸要素の影響を受けづらく、正しく装着されてさえいれば確実に保護している部位への衝撃を緩和してくれるのです。当然ながらスキル・規則面からの落車に対するアプローチを無視して良いというわけではありません。しかし、乗り手やその時々の状況に関わらずインスタントに生存率を向上させられるというプロテクターの特長は、サイクリストの安全を考えるうえで無視できない要素であると考えます。

 次に、サイクリストによるプロテクター着用が自転車業界の安全意識の高まりを外部に示せるという点についてご説明します。
 まず、現在の自転車業界の安全意識が、業界外部からはどのように映るのか考えてみましょう。例えばF1等のカーレースやバイクレースにおいても、死者が発生するような重大事故はたびたび発生します。しかし、それらの業界は乗り手の安全を確保する意識を高めて様々な装備を開発し、現在の安全装備は一昔前から大幅な改善がなされています。それに対して自転車競技における安全装備を見てみると、2000年代にようやくヘルメットが普及したものの、頭部以外の保護レベルは100年以上前から何ら進歩していません。それどころか、道路の舗装が進み、道路を走る自動車が増加したことなどを考えると、相対的な保護レベルは低下しているとすら言えます。ヘルメット普及以後も多くの死者を出しているにもかかわらず、安全装備の追加が検討すらされないのでは、傍目から見れば乗り手の安全を顧みない業界だと認識されても仕方のない状態です。

 もちろん、サイクリストの安全を図るには、安全装備のみならず乗り手のスキル向上やコース側の設備等の対策も考えられ、実施されてもいます。しかしそれらは効果が発揮される状況が限定的であり、また外部から見た際にそれらが安全性向上へ繫がっているのかというのが、視覚的・感覚的に分かりづらいという面も否定できません。その点、プロテクターというのは誰が見ても効果が分かりやすい安全対策であり、自転車界の安全意識が変わりつつあるというアピールにもなりやすいと考えられます。つまるところ、プロテクターの導入には「自転車趣味は危険だ」「自転車乗りは命知らずばかりだ」などといった自転車業界へのネガティブなイメージを払拭し、将来的なサイクリスト人口の増加に寄与し得る可能性までもが秘められている考えているのです。

 ただ、ここまで説明したメリットの存在にもかかわらず、現在までサイクリストによるプロテクターの着用は積極的に議論されてきませんでした。その理由としてプロテクターには「重い」「暑い」「蒸れる」「動きづらい」といったデメリットが存在し、またサイクリストの多くがそれらのデメリットを、メリットよりも大きなものであると捉えてきたことが考えられます。それはこの活動を始める以前の執筆者についても同様でした。

 しかし、2022年のインカレロードレースにおける死亡事故を目撃し、ロードレースの安全性について改めて考えることになった際に、そもそもサイクリストによるプロテクターの検証が少なく、評価を固められる水準に達していないことに気付きました。この気付きがオートバイ用のプロテクターを用いてトレーニング・レースに参加するという現在の検証活動に繋がっています。

 その検証活動の中で、上に挙げたようなプロテクターに関するネガティブなイメージは、実際に感じる影響よりも過大に評価されているように感じられました。暑さや蒸れについては感じ方に個人差が大きい部分であるものの、既存の技術を組み合わせて自転車用の製品を開発すれば、プロテクター未着用時とそう変わらないところまで着用時の体感気温上昇を抑えることも可能である考えています。またプロテクター装着による重量増加も500g~800g程度と普段のライドにおいて気になる程ではなく、自転車上での動きに影響するような動きづらさも無かったため、これらの要素は登りが重要なレース以外の状況においてプロテクターを着用しない理由にはならないだろうと感じました。総合的に見ると、暑さに強いサイクリストにとっては既にプロテクターを装着するメリットがデメリットを上回っており、また暑さを苦手とするサイクリストにとっても、メリットの方が上回るプロテクターを開発することは十分可能であるというのが、執筆者による現状の分析です。

 また、自転車関連の各メーカーが本格的にプロテクター開発に当たるようになれば、より少ないデメリットとより大きいメリットを両立したサイクリストのためのプロテクターが登場し、さらに改良を繰り返されていくことも想像に難くありません。

 ただし、そのための初期段階として、自転車界へのプロテクター導入は可能であり、かつ大きなメリットをもたらすのだという認識の広まりが必要です。PROTECT CYCLISTSの活動とは、この初期段階をもたらすためにこそ存在するのです。


*警視庁交通局『令和5年における交通事故の発生状況について』p.5 自転車乗用中における人身損傷主部位別死者数

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